不妊治療の医療費控除、対象費用と確定申告の手順を整理
領収書が手元にたまってきたとき、手をつける前に少し気持ちが重くなることがあります。この記事は、その重さを軽くするためではなく、何から確認すればよいかを整理するために書いています。
不妊治療の費用が積み重なってきたとき、「医療費控除って使えるのかな」と思う方は多いと思います。確定申告が必要なのはわかっていても、何が対象で、どう手続きするのか、助成金をもらっていたらどうなるのか、整理しきれていないこともあるでしょう。
この記事は、不妊治療費の医療費控除について、対象になる費用とならない費用、確定申告の基本的な手順、自治体の助成金や高額療養費制度との関係を、国税庁などの公的情報をもとに整理します。
不妊治療費は医療費控除の対象になります(費用の種類によって異なります)
国税庁の質疑応答事例では、「医師による診療等の対価として支払われる不妊症の治療費及び人工授精の費用は、医療費控除の対象となります」と明示されています。体外受精・顕微授精などの生殖補助医療(ARTとも呼ばれます)の費用も、同様に医療費控除の対象です。
ただし、費用の種類によっては対象外になるものもあります。詳しくは「対象になる費用・ならない費用」の節をご覧ください。
2022年4月から不妊治療の一部が公的医療保険の対象になったことで、保険診療の自己負担分(3割部分など)が医療費控除の計算の基礎になります。
医療費控除の仕組みをざっくり理解する
確定申告が必要です(年末調整では受けられません)
医療費控除は、年末調整では受けられません。給与所得者の場合でも、別途確定申告が必要です。これは多くの方が見落としやすいポイントですので、最初に確認しておいてください。
控除額の計算のしくみ
医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費をもとに計算します。現行制度(国税庁 No.1120)における控除額の計算の枠組みは次のとおりです。制度改正が行われる場合があるため、申告前に国税庁のウェブサイトでご確認ください。
医療費控除の額 = 支払った医療費の合計 − 保険金や助成金などで補填された金額 − 最低限度額
最低限度額は、原則として10万円とされています。ただし、その年の総所得金額等が200万円未満の場合は「総所得金額等×5%」との比較でいずれか低い金額になります。最高控除額は200万円です(国税庁 No.1120)。
還付額は個人の所得・税率によって変わります
医療費控除を受けると税額が下がり、払いすぎた税金が戻ってくることがあります。しかし、還付される金額は「医療費控除の額×適用される所得税率」で変わり、同じ医療費でも人によって金額は異なります。「◯万円戻ってくる」と一律に言えるものではありません。
具体的な見通しを知りたい場合は、税務署や税理士にご相談ください。
なお、還付される金額は個人の所得・税率によって異なるため、この記事では金額を断定しません。個別の税務判断(いくら還付されるか、どちらの夫婦が申告すると有利かなど)は税務署や税理士にご確認ください。また、費用の種類によって対象になるものとならないものがあります。詳細は以下で整理します。
対象になる費用・ならない費用
不妊治療に関連する費用でも、医療費控除の対象になるものとならないものがあります。
対象になる主な費用
国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」をもとに整理します。
- 医師による診察・治療の対価:診察料、不妊症の治療費、人工授精の費用、体外受精・顕微授精の費用など
- 治療に必要な医薬品の購入費:医師が処方した薬(排卵誘発剤など)の費用
- 国家資格を持つ施術者による治療目的の施術費:国家資格(あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師)を持つ施術者による、治療を目的とした施術費は対象になり得ます。ただし、治療目的との関連性など個別の状況によって判断が変わる場合があります。詳細は税務署にご確認ください
- 公共交通機関(電車・バス)を使った通院費:領収書がなくても、通院日や交通手段の記録(家計簿など)があれば対象となる場合があります
対象にならない主な費用
- 健康診断の費用:ただし、検診後にそのまま治療を行った場合は対象になり得ます
- サプリメントや栄養ドリンク:健康増進・予防目的のものは対象外です。医師が処方したものとは区別されます
- 市販の妊娠検査薬:医師の診療等の対価ではないため対象外です
- 自家用車のガソリン代・駐車場料金:対象外です。タクシー代は、公共交通機関を利用できない場合など一定の条件のもとで対象になることがあります。詳細は国税庁 No.1122 または税務署にご確認ください
- 国家資格を持たない施術者による施術費:妊活目的のマッサージ等、国家資格のない施術者による費用は対象外です
個別の判断が必要なもの
以下の費用については、治療内容や医師の指示の有無によって判断が異なる場合があります。一律に「対象」「対象外」とは言えないため、医療機関や税務署にご確認ください。
- 先進医療(保険外の付加技術)にかかる費用
- 着床前染色体検査(PGT-A)・精子凍結の費用
- 漢方薬の費用(医師が処方した場合は対象になり得る一方、市販品は個別判断が必要)
- 新幹線・飛行機を使った遠方への通院費(近隣に同等の医療機関がない事情など条件によって対象になることがあります)
助成金や高額療養費をもらった場合
自治体の助成金は差し引いて計算します
自治体から不妊治療費の助成金を受け取った場合、その助成金は医療費控除の計算では「保険金や助成金などで補填された金額」として、医療費の合計から差し引く必要があります(国税庁 質疑応答事例)。
助成金が非課税扱いであっても、医療費控除の計算では差し引く点に注意が必要です。助成金を受け取ったことを忘れずに計算に含めてください。
複数の助成金を受け取っている場合は、それぞれを差し引いて計算します。詳細は税務署にご確認ください。
高額療養費の払い戻しを受けた場合も差し引きます
2022年4月以降、保険診療の不妊治療は高額療養費制度の対象になりました。高額療養費として払い戻しを受けた分は、医療費控除の計算でも差し引く必要があります(医療費控除と高額療養費の二重取りにはなりません)。
高額療養費制度の仕組みや自己負担の目安については、所得区分によって異なり、2026年8月1日から施行される制度改正もあるため、高額療養費制度は不妊治療でどう使う?確認の手順と限度額適用認定証をあわせてご参照ください。
確定申告の手順
まず手元で用意するもの
- 医療費控除の明細書(国税庁のウェブサイトまたは税務署で入手)
- 通院に関する領収書(申告書への添付は不要ですが、5年間の自宅保存が必要)
- 医療費通知(健保組合等から発行されるもの。あれば一部の入力が簡略化できます)
明細書に書くこと
医療費控除の明細書に、1年間に支払った医療費を記入します。医療機関ごと、薬局ごとにまとめて記入できます。公共交通機関の通院費(電車・バス)も忘れずに記録しておきましょう。
提出のしかたと保管
医療費控除の明細書を確定申告書に添付して、税務署に提出します。領収書は申告書への添付が不要になりましたが、申告期限から5年間、自宅で保管する必要があります(国税庁 No.1119)。
毎年の申告期限は原則として2月16日〜3月15日です。ただし、医療費控除の「還付申告」(払いすぎた税金の返還を求める申告)は、対象となる年分の翌年1月1日から5年以内であれば申告できます(国税庁 No.2030。詳細は税務署にご確認ください)。
e-Taxとマイナポータル連携も使えます
e-Taxで申告する場合、マイナポータルと連携すると健保組合等の医療費データを自動入力できる場合があります。詳しくは国税庁の確定申告特集ページをご確認ください。
過去分をさかのぼって申告できます
還付申告は、対象となる年分の翌年1月1日から5年以内であれば申告できます(国税庁 No.2030)。記録や領収書が手元にある場合は、さかのぼって申告できます。詳細は税務署にご確認ください。
夫婦共働きの場合の申告者の選択
生計を一にする夫婦・家族の医療費は合算して、いずれか一方がまとめて申告できます(国税庁 質疑応答事例)。
どちらが申告するかで還付額が変わる場合があります。個人の所得・税率によって異なるため、どちらが申告すると有利かは税務署または税理士にご確認ください。
セルフメディケーション税制との関係
スイッチOTC医薬品(ドラッグストア等で購入できる特定の市販薬)の購入費を控除する「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」は、通常の医療費控除と選択適用です。同じ年に両方を受けることはできません(国税庁 No.1129)。
不妊治療の医療費がどちらの控除に有利かは、個人の所得・支出の状況によって異なります。両方の計算をもとに比較して判断することをお勧めします。詳細は税務署にご確認ください。
FAQ(よくある質問 ― 医療費控除と確定申告)
Q. 確定申告は自分でできますか?
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使うと、画面の案内に沿って入力しながら申告書を作成できます。マイナンバーカードがあればe-Taxで自宅から申告できます。医療費の金額が多い、夫婦の申告が複雑など、不安がある場合は税務署の無料相談や税理士への相談も選択肢のひとつです。
Q. 助成金を受け取りましたが、医療費控除は使えますか?
使えますが、助成金として受け取った金額は医療費の合計から差し引いて計算する必要があります。差し引いた後の金額をもとに控除額を計算します。詳しくは「助成金や高額療養費をもらった場合」の節をご覧ください。
Q. 領収書をなくしてしまいました。申告できませんか?
医療機関に再発行を依頼できる場合があります。公共交通機関の通院費は領収書がなくても、通院日時・経路・金額の記録(家計簿、スケジュール帳など)があれば認められる場合があります。詳細は税務署にご確認ください。
Q. 先進医療の費用は医療費控除の対象になりますか?
先進医療にかかる費用の医療費控除への該当性は、個別の治療内容や医師の指示の有無によって判断が変わる場合があります。一律に「対象」とはお答えできないため、医療機関または税務署にご確認ください。
Q. いつまでに申告できますか?過去の分もさかのぼれますか?
毎年の確定申告の受付期間は原則として2月16日〜3月15日です。ただし、医療費控除の還付申告(払いすぎた税金の返還を求める申告)は、対象となる年分の翌年1月1日から5年以内であれば申告できます(国税庁 No.2030)。過去の年分も同様にさかのぼって申告できます。その年分の領収書や記録が必要になります。詳細は「確定申告の手順」の節および税務署にご確認ください。
次の一歩
自分が今どの段階にいるかで、次に見る場所が変わります。
まだ治療を始める前で、費用感をざっくり把握したい方は → 妊活にかかるお金の全体像、何に備えると安心?
今年の治療費を申告したいという方は、この記事で手順を確認できます(追加確認は不要です)。
高額療養費制度との関係や自己負担の計算を確認したい方は → 高額療養費制度は不妊治療でどう使う?確認の手順と限度額適用認定証
保険診療と先進医療の費用の仕組みから整理したい方は → 不妊治療の保険適用、どこまで対象?基本を整理
外部への相談窓口:制度の計算や申告手続きでわからないことがある場合は、お住まいの地域の税務署(国税局電話相談センター)または税理士にご相談ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断を行うものではありません。医療費控除の対象範囲・計算・申告手続きの詳細は、国税庁のウェブサイトまたはお住まいの地域の税務署にご確認ください。
本記事は情報提供を目的としたもので、医療上の助言や診断ではありません。体調や治療に関する判断は医療機関にご相談ください。制度・費用・保険の内容は変わることがあるため、最新の情報は公式の案内でご確認ください。